「物理的ウエーブレット」
物理的ウエーブレットは、対象とする信号(時系列)と相関を取り、変位、速度、加速度を検出する。速度、加速度を相関から検出する時、ウエーブレットの形状にマッチする要素を時系列から切り取り、切り取ったサンプルの平均(加算)とサンプル間の差分操作をする。加算操作は、サンプル内の小さな凸凹をスムースにするローパスフィルター機能を持ち、それらサンプル間の差分操作は、スムースにしたサンプル間の大きな凸凹を強調するハイパスフィルター機能を持つ。従って、速度と加速度の検出時、バンドパスフィルターの機能が働いているので、様々な周波数を持って変化(運動)する予兆の情報源から、決定論的に変化する予兆の運動を選択的に抽出できる。2013年度の年賀に、武田が、物理的ウエーブレットの一例を、図8aのさざ波くん(観測窓)として、イラストにした。 変位、速度、加速度検出ウエーブレットで検出したD(c,t)、V(c,t)、A(c,t)は、すべて、破線で示す位置の時刻τ=tの値となる。従って、最新の時刻mとtの間には時間遅れがあり、t=m−s−Δt/2となる。
物理的ウエーブレットは、対象とする信号(時系列)と相関を取り、変位、速度、加速度を検出する。速度、加速度を相関から検出する時、ウエーブレットの形状にマッチする要素を時系列から切り取り、切り取ったサンプルの平均(加算)とサンプル間の差分操作をする。加算操作は、サンプル内の小さな凸凹をスムースにするローパスフィルター機能を持ち、それらサンプル間の差分操作は、スムースにしたサンプル間の大きな凸凹を強調するハイパスフィルター機能を持つ。従って、速度と加速度の検出時、バンドパスフィルターの機能が働いているので、様々な周波数を持って変化(運動)する予兆の情報源から、決定論的に変化する予兆の運動を選択的に抽出できる。2013年度の年賀に、武田が、物理的ウエーブレットの一例を、図8aのさざ波くん(観測窓)として、イラストにした。
目次
図8bの説明
図8bの縦軸は、横軸のスケールに比べ、相対的に拡大表示されている。横軸は、時間軸、τ、で、縦軸は、ランダム信号(時系列)のレベルを表す。この微分不可能な時系列から、変位、速度、加速度を検出する物理的ウエーブレットのイラストである[14,
16, 17]。Random signalを、地震発生の変化や地殻表面の変化の時系列d(c、τ)とする。時間τは、整数で、最新の時刻はτ=mである。
薄青色の方形波Dは、幅Δtで、高さが1/Δtで面積は1となる。時系列d(c、τ)と薄青色窓との相関積分を取ると、薄青窓から真上に見るデータを加算平均して、その値の観測時刻を、窓の中央に破線で示した時刻τ=tとする。つまり、窓幅Δtで平滑した変位D(c,t)を検出する。この幅Δt、高さ1/Δtの方形波Dを変位検出ウエーブレットと定義する。
この相関積分操作を、「時系列を窓から観測し、その平均値を、窓の中央の時刻τの値とする操作」とし、その操作により得た平均値を、窓から見た観測値とする。従って、図8bの各方形波は、色にかかわらず観測値(変位)を検出する観測窓となる。窓の方向が、上向きから下向きに変わると、窓から見た変位にマイナスの符号をつける。
例えば、下向きのピンク窓V2から見た変位には、マイナス符号が付く。同様に、下向きの赤色窓A2からみた変位にもマイナス符号が付くが、下向きの赤窓の高さは、−2/Δt、(面積は2)なので、その窓が見た変位は2倍される。
ピンク窓のペアー、V1とV2は、青窓から(Δt+s)/2だけ左右に離れて配置されている。従って、間隔時間sだけ離れた、上下のピンク窓から時系列を同時に見ると、2つの変位の差を取り、その差分値の観測時刻を、薄青窓の中央の破線位置の時刻τとする。従って、ピンク窓のペアーは、間隔sだけ離れた、変位の一次差分値を検出する。その1次差分値を、間隔sで除算し、破線位置(時刻)の速度V(c,t)となる。ピンクのペアーV1とV2を幅Δt、差分間隔sの速度検出ウエーブレットと定義する。
3つの赤窓は、間隔sだけ離れた変位の2次差分を検出し、中央の破線位置(時刻t)の2次差分値とする。その差分値を、間隔sで2回、除算するとその時刻の加速度A(c,t)となる。3つの赤窓の形状と配置は、ピンク窓のペアーの1次差分操作を、もう一度繰り返して得る。赤窓のA1、A2、A3を幅Δt、差分間隔sの加速度検出ウエーブレットと定義する。
変位、速度、加速度検出ウエーブレットで検出したD(c,t)、V(c,t)、A(c,t)は、すべて、破線で示す位置の時刻τ=tの値となる。従って、最新の時刻mとtの間には時間遅れがあり、t=m−s−Δt/2となる。
又、最新の変位は、変位検出ウエーブレットDをA1の位置にシフトして得た時刻τ=m−Δt/2の変位D(c,m-Δt/2)となる。しかし、この変位に作用する加速度は、時刻mよりsだけ進んだd(c.m+s)までのデータが無いので定まらない。
物理的ウエーブレット
ランダムな現象を取り扱う場合、不可能となる微分操作を避けるために、そのランダムな統計分布法則と微分法則を上手に組み合わせた確立微分方程式もあるが、その統計分法則に適合した物理、経済現象しか記述できない。物理現象では、確率過程と微分とを現象論的に結びつけた拡散の偏微分方程式[24]、ランジュバン方程式[24]、ランダムで微分不可能な現象の微分操作を、巧みに回避した伊藤の確立微分方程式[25]、金融工学では、伊藤の補題を発展させたブラック-ショールズ方程式[25]等がある。しかし、これら確立微分方程式は、予兆の性質から、予兆の運動方程式として使用できない。そこで、武田は、次に述べる、「物理的ウエーブレットによるリアルタイム信号処理手法」を開発し
[14, 16 - 22]、その手法に証明も与えた
[14, 16]。
ランダム時系列の微分操作を、微分操作の物理的性質を継承する新たな平均操作と差分操作で置き換え、高周波成分のジグザグする箇所で、不可能となる微分操作を回避した。平均操作は、時間の反転操作に対称となる性質を課した移動平均操作と、略、等価であればよい。数学、物理学で定義されている速度、加速度を求める1次、2次の微分操作が持つ物理的性質とは、次の5つの性質である[14]。
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時間の方向の反転に対し、1次の微分操作は非対称となるよく知られた性質
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時間の方向の反転に対し、2次の微分操作は対称となるよく知られた性質
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時間の一次の変化率(速度)を求めるその1次微分操作は、Diracのデルタ関数で位置(もしくは基準位置からの変位)をサンプリングする操作と、常に直行関係にある性質
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2次の変化率(加速度)を求めるその2次微分操作は、1次の微分操作と、常に直行関係にある性質
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2次微分を求める操作は、デルタ関数で位置をサンプリングする操作と、直行関係にない性質(強制的に直行させる事も可能)
この直行関係にある3)と4)の性質と、5)の性質は、武田の知る限り、誰も気に留めていないと思われる。例えば、「一次元の質点運動において、質点の位置を検出する操作と、その時間の変化率(速度)を得る微分操作が、互いに直行する性質を生みだす事」は、数学の教科書の微分の定義、又、物理の速度、加速度の定義において、教科書のレベルを問わず、又、学術論文でも、一切、指摘されてない。
しかし、微分不可能な時系列から、微分により定義された速度、加速度を得るには、1次差分、2次差分操作に、上記、1)−5)の性質を課さなければ、その運動方程式も物理モデルも構築できない。
武田は、微分操作が持つ5つの性質を正しく継承する、差分操作を考案し、それらを、物理的ウエーブレットとして一般化した。その一般化は、ランダムな時系列から、任意選択できる周波数領域にある位置(変位)、速度、加速度の抽出を、可能とする。従って、ランダムな地震発生現象から、決定論的な予兆の変化を抽出でき、その予兆の運動に関する物理モデル作成を可能とした。この物理的ウエーブレットを用いて導出した、運動方程式は、既存の確立微分方程式とは、異なり、ランダム現象の統計的性質に依存しない。
物理的ウエーブレットの歴史
武田文秀は、1985年、南太有限公司(香港)の技術開発顧問として、血圧測定に於ける、収縮期血圧(最高)、拡張期血圧(最低)、カフを用いた血圧測定中の動脈血管の収縮運動と動脈硬化度の検出アルゴリズムの開発に取り組んだ。それら開発とデジタル血圧計の商品化を1年で、終え、香港工場で量産にも携わった。
この時、デジタル血圧計の商品化を可能にしたのが、物理的ウエーブレットの速度検出ウエーブレットだった。この速度検出ウエーブレットの使用が、東芝社の4ビットマイコン(LSI)で、わずか2K‐ROM、192ニブルのRAMサイズの、TMP47C220AF、4075、“T8649EBI(Toshiba
Co., 1985)”にプログラムの書き込みを可能とした。
当時、ウエーブレット解析は、未だ、生まれてなく、その存在を知った1992年に、物理的ウエーブレットが持つ、ウエーブレット解析との類似点から、速度検出ウエーブレット等を、物理的ウエーブレットと命名した。
尚、武田が、開発した当時の血圧測定技術やknow-how等は、東京、三軒茶屋にあった南太有限公司の支社に、大企業から、ベンチャーを目指し、転職してきた5人の技術者の内の、2人にすべてを教え、技術開発顧問を辞めた。
参考文献
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