父島のGPSステーションのF3座標値を数式(A1)で表示される変位時系列に変換し、上段から、南北、東西、上下方向の変位の推移として、図A-1aにグラフ表示した。1996年からの1999年までのデータには多くのノイズがあり、それらデータは解析に使用せず、2000年1月1日から2011年3月8日の期間のデータを使用した。父島の ステーションは3月8日を持って予め運用停止が決定されていたので、3月9日以降の父島のステーションの位置座標は観測されていない。 変位D(c,τ)と速度V(c,τ)の原点は、変位d(c,m)の原点と同じ、縦軸目盛の0である。なお、変位d(c,m)と、平均変位D(c,m)と、その速度のV(c,τ)の位相関係は、D(c,τ)が、d(c,m)から7日遅れ、V(c,τ)が17日遅れている。これら時系列の長さを同一にしたグラフ 表示のため、m=0〜27に相当するd(c,m)の最初の27日間と、D(c,τ)の20日間のグラフは表示されていない。太平洋プレートの東西方向の運動を明確にするため、変位D(E,τ)と速度V(E,τ)との関係を、これら時系列グラフに追加して、D-V位相平面図にD(E,τ)-V(E,τ)軌跡を描く。位相平面図に於ける 横軸の変位D(E,τ)の原点は、太い赤線で印をした縦軸目盛りの原点0の個所となり、その値は、オフセット値の-0.2mとなる。従って、D-V図に於ける原点の値は、変位D(E,τ)が、-0.2mとなり、変位の一次変化率である縦軸の速度V(E,τ)が、0m/dayとなる。このD-V位相平面図の横軸のDの範囲は、±24cmで右側反面がD(E,τ)のプラス(原点から東側)領域となる。縦軸Vの範囲は、±1mm/dayとなり、上側半面が、V(E,τ)のプラス(東方向)領域となる。この位相平面図に描かれたD(E,τ)-V(E,τ)軌跡から、太平洋プレートの異常加速運動が特定される。西方向への速度V(E,τ)は、2010年7月11日頃まで、最大約0.2mm/dayであったが、急激に加速し始め、2010年12月22日には、通常速度の約3倍の速度(0.66 mm/day)に到達した。この日には、父島近海でM7.9の大地震が発生している。その発生個所を、時系列[E]上の時刻m=3864(2010/12/22)の個所とD-V位相平面図の軌跡上にM7.9と矢印で表記した。急加速直後に、急減速が始まり、2011年1月27日頃には西方向への運動は停止し、速度V(E,τ)は、ゼロとなり、西方向への運動は、東方向へと逆転し、僅か3-5日後に、その東方向への速度は、0.06mm/dayまで上昇し、巨大地震発生直前の3月8日頃まで、その東方向の速度値は、変化しなかった。 2009年12月23日から2011年3月8日の期間(m=3500〜3940)の様子を、拡大表示した。拡大図の左下の数値、-0.3896は、2000年1月1日から2011年3月8日までのd(E,m)の総変位量が、西方向へ0.3896mであった事、その下の2500は、縦軸目盛りの拡大率である。D-V位相平面図に於ける変位D(E,τ)の原点は、太い青線で印をした目盛り-400の個所のオフセット値となる。目盛りの倍率が2500なので、このオフセット値は、-0.16mとなる。従って、東西方向の変位時系列[E]は、2000年1年1日の位置を基準にすると、縦軸目盛りの0が、-0.2mと、既にオフセットされているので、D-V図に於ける原点の値は、変位D(E,τ)が、-0.36mとなり、速度V(E,τ)の原点が、0m/dayとなる。変位D(E,τ)が、原点となる縦軸目盛り-400の値を取る個所の時刻は、m=3700の2010年7月11日で、その個所に両矢印と2010/07/11と表記した。D-V位相平面図の速度Vの縦軸目盛り範囲は、±1mm/dayとなり、上半面がプラス(東方向)領域となる。変位Dの範囲は、原点となるオフセット値から、±4cmとなり、右側半面が、プラス(原点から東側)領域となる。それら領域の大きさを、両矢印と数値で、D-V図に表記した。又、速度V(E,τ)と加速度A(E,τ)とを、左の縦軸目盛りの0を原点とした相対スケールで、表示した。又これら速度と加速度に含まれている振動の周期の28日を、破線間隔で加速度A(E,τ)上に示した。父島のステーションは3月8日を持って予め運用停止が決定されていて、その 最終時刻は、m=3940となる。これら、異常加速運動が観測された上記日時は、変位検出ウエーブレットの幅15日と差分間隔20日による遅れ時間(最低、幅による7日と差分間隔による10日を加算した計17日の遅れ日数)は考慮されていない実時間である。異常運動の確定に費やす日数を考慮すると、50日程を要した急加速運動は、巨大地震が発生する50日程前に終え、その直後、急減速し、西方向への運動は、遅くとも20日程前に、急停止した事を、時系列[E]から確認できる。 更に、使用した幅(15日)と差分間隔(20日)は、用途別に、任意設定できる。例えば、日々のランダム変動ノイズと図A‐1cに出現している略28日の地球潮汐の周期とを平滑するために、変位検出ウエーブレットの幅Δt (2w+1)を29日とし、差分間隔を35日とし、異常運動の確定をより正確にする事ができる。その2010年4月2日から2011年3月8日の期間(m=3600〜3940)の様子を、[図18]に拡大表示した。幅(2w+1)は、奇数値となるが、wの値が大であれば、偶数値を使用しても結果に差は無い。又、差分間隔sは、偶数値であるが、sの値が大きければ、奇数値を使用しても結果に差は無い。父島のGPSステーションは、2011年3月9日以降その運用が停止されているので、母島のGPSステーションの変位時系列を用いて、巨大地震発生後の父島のGPSステーションの地殻変動を推論する。 母島のGPSステーションでは、2004/06/15から2005/09/24まで長期間のデータ欠損があった。その欠損前後に、加速を伴った地殻変動は無かったと仮定すれば、その時系列データをオフセット連結できる。連結した結果には、地震による様な大きな地殻変動は観察されていないので、その「加速を伴った地殻変動は無かった」とする仮定は、概ね満足されている。従って、連結した時系列を2011年10月29日まで延長した [E]に、幅29日の変位検出ウエーブレットと差分間隔35日の速度検出ウエーブレットを適用し、巨大地震発生前後の異常な加速運動を、図A-2aに図示した。
母島のGPSステーションの変位時系列[E]は、巨大地震発生前まで父島と略同様なので、巨大地震発生後も、その東西方向の地殻変動は、父島と同様であったと推論できる。なお、2011年3月11日の巨大地震発生日、東北地方を始め日本各地のGPSステーションの、変位時系列[c]には、スパイクノイズが、存在し、母島のGPSステーションの変位時系列[c]にも、時刻m=3606(2011年3月11日)に存在している。そのノイズの個所は、2011/03/11@ m=3606 M9のラベルと破線矢印で、東西方向の変位時系列[E]のd(E,m)上に表記した。又、異常変位運動を起こした個所には、父島近海の大地震の発生時刻とM7.9を2010/12/22@ m=3527 M7.9のラベルと両矢印でd(E,m)とV(E,τ)上に表記した。この異常運動とM7.9大地震の発生個所は、D-V図の軌跡上にも矢印とM7.9を表記した。又、M9地震の個所もD-V図に描かれた軌跡上に表記した。巨大地震M9の軌跡は、スパイクノイズの影響で鋭く変化している。このスパイクノイズの影響を取り除くために、3月11日はGPS観測のデータ欠損日だとして、その日の前後のデータを連結し、巨大地震発生前後の変位時系列[E]のm=3300〜3836(2010年5月9日から2011年10月29日)までを、図A-2bに拡大表示した。 この時系列[E]とD-V位相平面図に描かれたD(E,τ)-V(E,τ)軌跡は、太平洋プレートの西方向への運動が、巨大地震が発生する45日程前に、急停止し、その直後、東方向への運動に反転するが、巨大地震発生後、西方向の運動に戻る。この西方向の運動は小さく150日間ほど継続し、太平洋プレートの西方向への運動に再加速されている。そのD-V位相平面図に描かれたD(c,τ)-V(c,τ)軌跡で表示される予兆の推移は、天気図で表示される台風情報と同等に取り扱える。「台風の芽の発生」は、次に述べる「東日本の 通常変形からの膨らみの発生」と見なせる。従って、D-V位相平面図を、巨大地震発生の予報図として利用できる。 通常な太平洋プレートの西方向への移動は、太平洋プレートと固着している東北地方の東海岸側を引きずりこむ。例えば、東海岸のGPSステーション女川の過去15年間余りの地殻変動時系列[N]と[E]と[h]のd(c,m)に変位検出ウエーブレットの幅を400日とし、差分間隔を300日として、変位D(E,τ)と速度V(E,τ)とを検出する。それら検出結果を、図A-3aに表示した。縦軸目盛りの拡大率は、上段の[N]が、5000倍、中段の[E]も、5000倍、下段の[h]が、10000倍である。これら検出結果によると、太平洋プレートとの固着は、女川のステーションを約18mm/yearで西方向へ、約10mm/yearで南方向へ引きずり、約6mm/yearで沈下させていた。女川の高さ方向の時系列[h]には、上段[N]と中段[E]に矢印で示された地震発生個所にノイズ変動とは異なる約4cmの沈下が観察される。この沈下は、このステーションの近くで2008年6月14日に発生したマグニチュード7.2の地震によるもので、時系列[E]を、4cm程東に、時系列[N]を1.5cm程南に移動させている。上下変動[h]には、この地震による変動以外、明確に観測されていないが、[N]には、2003年5月26日のM7.1、[E]には、2003年7月26日のM6.4の地震がそれぞれ観察されている。この女川のステーションは、これら地震時の移動も含め、15年間で、[N]から北へ約11cm、[E]から西へ17cm、[h]から下方へ9cmの移動が確認されている。[N]から、これらの移動は、絶えず南方向へ移動している。2008年6月14日のM7.2の地震による[E]の東方向への移動を除けば、西方向への定常的な移動は、[h]の沈下と連動している。各大地震の 発生個所は、その発生日とマグニチュードを、時系列d(c,m)上に、矢印で示した。巨大地震の発生個所は、二重矢印で示した。上記太平洋プレートの西方向への通常な移動により沈下していた東北地方の東海岸側に、隆起速度成分を持った膨張(隆起)が2009年12月8日頃から始まった。その隆起の開始時点は、女川の図A-3aの下段[h]のD(h,τ)とD-V位相平面図に描かれたD(h,τ)-V(h,τ)軌跡上に破線矢印で示した。
父島のGPSステーションのF3座標値を数式(A1)で表示される変位時系列に変換し、上段から、南北、東西、上下方向の変位の推移として、図A-1aにグラフ表示した。1996年からの1999年までのデータには多くのノイズがあり、それらデータは解析に使用せず、2000年1月1日から2011年3月8日の期間のデータを使用した。父島の ステーションは3月8日を持って予め運用停止が決定されていたので、3月9日以降の父島のステーションの位置座標は観測されていない。
図A-1aの説明(地殻変動グラフの説明)
グラフの縦軸のプラス方向(上向きの方向)は、上段がN(北)方向、中段が、E(東)方向、下段が、地表からh(上)
方向となる。各縦軸の単位は、全てメートル(m)で、赤色の目盛りの原点(ゼロ)上に黒色で記される目盛値が、2000年1月1日の位置を基準値の0
mとするオフセット値となる。
例えば、上段の南北方向の変位時系列[N]の赤色目盛りの原点(0)上の黒色で記された0.05(メートル、m)が、2000年1月1日の南北方向の変位0mの基準位置からのオフセット値となる。従って、変位ゼロの基準位置は、目盛りが5000倍に拡大されているので、0.05メートル下方の、目盛りの-250に相当する個所となる。
横軸は、各段に共通な日数の時間軸mで、1目盛は、単位時間の1日(day)である。最下段の時間のウインドウは、任意期間を拡張表示する拡張ウインドウである。
時系列[N]の変位d(N,m)の推移は緑色で表示され、上の方向(北の方向)へ移動している。観測値に欠損日があれば、その日を、除去し、前後の日で連結表示している。又、2011年3月8日(m=3940)の最終の変位値は、左側の水銀柱の目盛りに緑色の柱の高さ赤色の原点ゼロの位置からオフセット表示され、その変位の値が、下方(縦軸と横軸が交わる付近)に緑色で0.1182メートルと記されている。又、(E,N,h)の直行座標の関係を図示した。
同様に、中段には、東西方向の時系列[E]の変位の推移が、縦軸の拡大率2500倍で表示されている。2000年1月1日の位置からのオフセット値は、縦軸目盛りの原点ゼロで、-0.2mとなる。西方向への変位d(E,m)の総移動量は、10年余りで、0.3896メートルとなっている。
下段の拡大率は、上段の5000倍と同じで、時系列[h]の変位d(h,m)の上下変動は、10年余り、殆ど無かった事を示している。2000年1月1日の位置からのオフセット値は、ゼロで、縦軸目盛りの原点ゼロ上に、0と表記されている。約0.02メートル(2cm)の日々の上下変動(ジグザグな振幅変動)は、実際に生じる地殻の上下変動とは、全く無関係なGPSの観測に関連する環境ノイズによるものである。もし、GPSステーションで観測する環境に異常が無く、一日に2cmの地殻の上下変動があれば、その地殻変動は、地震発生によるものである。
図A-1aによると、父島のステーションの通常な西方向への運動は、10年余りにわたり39cm移動していた。その年間の変化率は、約3.9cm/yearとなり、日々の変化率は、約0.11
mm/dayとなる。
地殻変動
GPSを用いて観測した各電子基準点(GPSステーション)の世界測地系(地球の重心が原点)の位置座標値を、各ステーションに定めた東西(X軸)、南北(Y軸)と上下(Z軸)方向の直行座標系の位置座標値に変換する。この座標値を用いて、ステーションの位置が変化する推移を、3方向成分の時系列とし、所定の基準位置からの変位とする。この3成分の時系列を、数式(1)の時系列[c]と同様に記述する。従って、cは、東西方向(X軸)成分を表すE、南北方向(Y軸)成分を表すN、上下方向(Z軸)成分を表すhとなる。各時系列の単位は、メートル(m)、時間を示すインデックスjは、日数となり、単位時間は、1日となる。GPSステーションの基準位置を、初日のGPS観測値とすると、初日の変位が、ゼロとなり、2日目の変位が、基準値からの位置変化の値となる。変位時系列データの各成分は、数式(1)の震源要素cを、EとNとhで置き換えた次の数式(A1)となる。
(A1)
初日の位置を、ステーションの基準位置としたので、d(E,1)、d(N,1)、d(h,1)はそれぞれ、ゼロとなる。しかし、ステーションの基準位置は、任意日のステーションの位置に取ることもできる。この場合、任意に選択した日の各変位がゼロとなる。
この様に、GPSステーションの日々の位置座標を時系列化し、その平均値を基準位置とし基準位置からの変動を変位時系列とするグラフ化やデータ化の技術は、国土地理院のウエブサイトで公開され、それら表示データもダウンロードできる。変位時系列の単位時間は、1日(24時間)である。更に、公開されている10年以上の長期間のGPSステーションの日々の位置情報は、F2かF3解析の各年毎のデータファイルとして、ダウンロードできるので、それら世界測地系での位置情報を数式(A1)の変位時系列(単位時間は1日)に座標変換すれば良い。GPSステーションの位置情報は、GPSの観測データの処理方法に依存するので、この単位時間は、1日(24時間)でなく、処理速度の速い1秒とする事もできる。
数式(A1)で与えられるGPSステーションの変位は、ノイズによる変動が大きい。特に、数式(A1)の[h]の上下変動は、丁度、地震の発生(仮想粒子の出現)が描くジグザグ 軌跡となる。[h]軌跡のジグザグ箇所で、その時間微分は
不可能となり、運動の微分方程式を導出できない。他の[E]と[N]成分も、拡大するとノイズの影響が在り、数式(1)の震源要素時系列[c]と同様に、ジグザグ箇所で、その時間微分が不可能となる。従って、その時間微分操作が持つ時間の非対称性に関する物理的性質を、正しく反映する差分操作を導出しなければならない。この差分操作を満足させる物理的ウエーブレットを用いて、時系列(A1)から、変位D(c,τ)、速度V(c,τ)、加速度A(c,τ)を検出する。
GPSステーションの時刻τの変位D(c,τ)、速度V(c,τ)と、そのD-V位相平面図のD(c,τ)-V(c,τ)軌跡とを用いると、ノイズに埋もれていた「地殻変動の異常」を「巨大地震発生の予兆」として確定できる。その予兆の推移(巨大地震発生の自然法則)の唯一の観測例が、2011年3月11日に発生した東日本巨大地震である。太平洋プレートと大陸プレートの動きを、物理的ウエーブレットを用いて観察する。
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